女性は妊娠中、おなかを前に突き出したそり返った姿勢になるため、腰痛に悩まされることが多いものです。腰痛予防のために「マタニティスイミング」の効用が注目されていますが、水泳の効用は妊娠中に限りません。欧米では、多くの病院にプールが併設され、腰痛をはじめ、さまざまな症状・病気の治療に広く利用されています。泳げないかたは二の足を踏まれるかもしれませんが、ただ水の中を歩くだけでもいいのです。
私たちの腰にはふだん、ただ立っているだけで100kg、あおむけに寝そべった姿勢でも25kgもの圧力がかかっています。水の中では浮力のおかげで体が無重力に近い状態になるため、腰はこのような圧力から解放されます。水中は陸地にくらべ5~8倍もの抵抗があり、この水の抵抗を押しながら歩けば、関節を痛めずに腰まわりの筋肉を鍛えることができます。水中歩行で鍛え上げられた筋肉は、いわば“自然のコルセット”となって腰を圧力から守り、これが腰痛の改善につながるのです。ここでは、ご自身で腰痛を改善できる水中歩行のプログラムを紹介します。難易度に応じて3段階に分かれていますので、やさしいほうから順に行ってみてください。私は患者さんにこの水中プログラムをお教えしていますが、指導どおりにつづけている人は腰痛が改善されています。
第1段階は、乳のあたりまで水につかり25mプールをゆっくりと往復します。両ひじを真横に上げて水から出し、左右に大きく振りながらバランスをくずさずに歩きます。ひじの振りに合わせ、腰もひねるようにしてください。水から出した手の先を胸の上で組み、この姿勢でひじを左右に振りながら歩けば、腰をひねる運動の効果がさらに高まります。呼吸は、前に進むときに鼻から息を吐き、次の動作に移る瞬間に口から吸うようにします。
第2段階では、右手を肩の上から背中に回し、その右手を下から出した左手でつかんで歩きます。背中で手が組めない場合は、両手を組んだつもりで背中に回した姿勢で歩いてください。同じく25mプールを往復しますが、第1段階よりも少し早く歩くようにします。しばらく歩いたら今度は左手を上から回し、下から右手でつかんで歩きます。このように手を組んで歩くのは、肩の関節をやわらかく使うとともに、腰だけでリズムをとることになり、第1段階の姿勢より腰まわりの筋肉を鍛える効果が高いからです。
第3段階では、時間をはかりながら50mプールをフルスピードで歩いてみます。1日に50mを何回、何分で歩くかはご自身のペースでけっこうです。そのつど時間をはかり、無理のない範囲で少しずつタイムを縮める目標を持ってつづけられるのがいいでしょう。
ほかにも、もぐって壁をけって飛び出したり、プールサイドにつかまって平泳ぎのキックをすることも腰痛改善効果の高い運動です。
(城南病院院長 石塚忠雄)