カゼの予防に塩水でうがいをしたり、歯周炎や歯槽膿漏の予防に塩で歯ぐきをマッサージするなど、塩を用いた民間療法は少なくありません。またせっけんのかわりに塩で体を洗っていた時代の名残で、入浴時に体を塗る健康法も、大正から昭和の始めごろまでは日常的によく行われていたようです。 ギックリ腰の予防にすすめている「塩ぬり療法」は、こうした昔ながらの健康法にヒントを得て、一つの療法としてまとめ上げたものです。入浴時、腰に塩をすりこむだけの簡単な方法ですが、効果を最大限に高めるために、いくつかのポイントがあります。
塩はにがり(ミネラル分)を豊富に含む自然塩を用います。1回に腰に塗る量は2gほどで、塩の量を増やしたからといって効果が高まるものではありません。体をいつものようにせっけんで洗い、湯ぶねで体が十分あたたまったところで、いすに腰かけて行います。
まず塩を両手にとり、背骨に沿って上から下へと腰全体に塩を塗り込みます。腰で特に痛めやすいのは、腰椎のいちばん下にある第4~5腰椎ですから、臀部の上部にかかるあたりまで塩でさすります。もまずに塗るだけでよく、塗り終えたらしばらくそのままにして、発汗して塩がとけるのを待ちます。塩が水に溶けてイオン化することで塩の膜(錯塩(さくえん))ができるので、ぬれた体をふかずに塗るのがコツです。ちなみに湯ぶねに一度つかったあとに行うのは、体があたたまっているほうが皮膚からの発汗が高まるため。待っている間にあたたかいタオルで腰を軽く押さえていると、汗で塩が流れるのを防ぎ、またタオルの熱が保温を助けてくれます。3~5分ほどたったら、かけ湯やシャワーで体の表面に残った塩を洗い流し、もう一度よくあたたまってから出ます。
ギックリ腰のベースには、脊柱起立筋、腰方形筋、多裂三角筋など、背骨を支えている筋肉の慢性的な疲労があります。これらの筋肉に日ごろから疲労をため込んでいると、不自然な姿勢をとったときなどに筋肉が上体を支えきれなくなり、ギックリ腰を起こすのです。ギックリ腰の予防には、酷使されている腰の筋肉の疲労回復を図ることがなによりもたいせつです。入浴自体、全身の血行をよくして、筋肉にたまった老廃物を洗い流す効果がありますが、腰に塩を塗れば皮膚呼吸が活発になって新陳代謝が高まり、入浴の効果をより高めることができるのです。
ただし、ギックリ腰を起こした直後の3~4日は、入浴で患部をあたためるのはよくないので行わないでください。また、まれに塩で肌がかぶれることがありますので、事前に腕の内側など肌の弱いところに少量の塩を塗って、肌が赤くなるような場合は避けましょう。
ギックリ腰でこわいのは、2度3度と繰り返すうちに、椎間板ヘルニアなどに進行することです。私はギックリ腰の患者さんにこの療法をすすめていますが、多くの方が再発予防に成功しています。
(明治鍼灸治療院院長 岸川健介)